はじめに:血の伯爵夫人と吸血鬼伝説
バートリ・エルジェーベトの概要とその異名
バートリ・エルジェーベトは「血の伯爵夫人」として知られ、吸血鬼伝説のモデルとなった人物です。彼女の異名は、少女たちの血を美容のために使用したとされる逸話や、650人もの犠牲者を出したとされる残虐行為から生まれました。
バートリ家は16~17世紀のハンガリーで最も有力な貴族の一つであり、エルジェーベトはその財力と権力を背景にチェイテ城を拠点としていました。「血の伯爵夫人」として恐れられた彼女の行動は、吸血鬼のような恐怖の象徴となり、現在でもオカルト研究の重要な題材となっています。
バートリ・エルジェーベトは単なる歴史上の人物ではなく、吸血鬼伝説やオカルト文化に大きな影響を与えた存在です。
余談ですが、ハンガリー人の姓名は日本時と同じ順です。なのでバートリ家のエルジェーベトさんになります。英国風にエリザベス・バートリと呼ばれることもあります。
「吸血鬼伝説」と結びつけられる理由
バートリ・エルジェーベトが吸血鬼伝説と結びついた理由は、血に関する残虐な行為と美への執着です。彼女は、処女の血を浴びることで若さと美を保てると信じていたという逸話があり、この点が吸血鬼の持つ永遠の生命力と美の象徴と合致します。吸血鬼文学の古典「ドラキュラ」では、人の血を吸うことで不老不死を得るというテーマがあります。このテーマは、エルジェーベトの「血にまつわる美」の追求と直接的な共通点を持っています。また、オカルト界では「血の伯爵夫人、バートリ・エルジェーベト」が吸血鬼の起源として取り上げられることが多くあります。
吸血鬼ドラキュラといえばマントを羽織った中年の男性のイメージですが、ドラキュラがモデルとしたのは貴族の夫人でした。ちょっと意外ですね。
オカルト界でのバートリ像とその影響
バートリ・エルジェーベトは、オカルト文化の中で「恐怖と魅力の象徴」として現代に受け継がれています。彼女の行動や伝説は、現代のホラー文化やスピリチュアル研究においても注目されており、彼女の拠点であったチェイテ城はオカルト愛好家たちの聖地とも言えます。
チェイテ城は現在スロバキアの観光名所となっていますが、ここを訪れる多くの人がエルジェーベトの幽霊に関する噂話を目当てにしています。また、吸血鬼伝説だけでなく、悪魔崇拝や魔術との関連性も取り沙汰されることが多くあります。
エルジェーベトの生涯とその謎
生誕と家系
名門バートリ家の概要とハンガリーの歴史的背景
バートリ・エルジェーベトは16世紀ハンガリーの名門バートリ家に生まれ、家族の権力は彼女の影響力を大きく支えました。バートリ家は、トランシルヴァニア公国を中心に多くの領地を有し、ハンガリー王国の政治に強い影響力を持っていました。
エルジェーベトの叔父は悪魔崇拝者として知られ、親族にはポーランド王やトランシルヴァニア公などの要職を務めた者もいます。こうした背景から、エルジェーベトは幼少期から特権的な生活を送りましたが、その一方で家族内に広がる悪名や異常性も彼女に影響を与えた可能性があります。
近親婚がもたらした家族の異常性
バートリ家では近親婚が行われており、これがエルジェーベトの性格や行動に影響を与えた可能性があります。貴族の間で財産を保持するための近親婚が広く行われており、エルジェーベトの両親もその例外ではありません。
近親婚の結果、一部の親族は精神疾患や性的異常を持っていたとされます。叔父が悪魔崇拝に傾倒していたことや、兄弟に色情狂がいたという記録もあります。こうした家庭環境が、彼女の異常な行動や後の吸血鬼伝説の源流に影響を与えた可能性が考えられます。
近親婚は中世の貴族の間では、よくあることだったようです。財産の外部への拡散を防ぐためというのが主な理由ですが、ハプスブルク家も近親婚の結果滅んだとされています。近親婚のもたらす弊害は大きそうですね。
結婚と領地経営
ナーダシュディ・フェレンツ2世との結婚生活
エルジェーベトはナーダシュディ・フェレンツ2世と結婚し、領地経営において夫の死後、実質的な支配者となりました。フェレンツ2世は対オスマン帝国戦争の英雄として知られ、エルジェーベトと結婚したことでさらに地位を高めました。
しかし、彼の早すぎる死がエルジェーベトに重大な責任を課すことになります。結婚後、エルジェーベトは夫の軍事的成功の裏で領地の実務を取り仕切り、チェイテ城を拠点に統治を行いました。その一方で、夫の死後、暴力的行動がエスカレートしたとされています。
エルジェーベトは、フェレンツ2世との間に6人の子を産んでいますが、夫が存命中から性別問わず複数人と浮気していたそうです。さらに夫が亡くなってからは拷問が拷問が過熱し、娘の皮膚を切り裂いたり、陰部を切り取りして、それを見て興奮するなど異常性欲者としての片鱗も伺えます。
チェイテ城とその重要性
チェイテ城はエルジェーベトの活動の中心であり、彼女の伝説を語る上で重要な場所です。この城は彼女の拷問や実験が行われたとされる場所であり、伝説の背景を支える重要な舞台でもあります。現在、チェイテ城はスロバキアの観光名所となっています。訪れる多くの観光客は、彼女の幽霊が出るという噂を楽しみにしています。
残虐行為と伝説の誕生
美の追求と処女の血の逸話
エルジェーベトが処女の血を美容に使ったという逸話は、彼女の伝説の中心的なテーマです。彼女は美貌と若さを保つため、少女の血を使ったとされ、この行為が吸血鬼伝説を想起させました。侍女の血が彼女の肌に美しさをもたらしたという偶然の出来事から、若い女性たちへの残虐行為が始まったとされています。処女の血に執着する彼女の姿は、吸血鬼伝説の中核として語り継がれています。
少女たちに対する行為の記録と証言
エルジェーベトによる少女たちへの残虐行為は、多くの記録や証言で確認されています。証言によれば、彼女は拷問や殺害を日常的に行い、特に若い女性を標的としていました。証人の証言では、エルジェーベトが火傷、溺死、刺殺などの方法で少女たちを苦しめたとされています。
最終的に1人が脱走することで、悪事が世に出ることになります。通報を受けて城に入った役人達は多くの残虐死体と衰弱した生存者を発見し、さぞかし驚いたことでしょう。城のあちこちに多くの遺体が埋められていることも、明らかになりました。
処罰と最期:監禁生活の詳細
エルジェーベトは最終的に逮捕され、監禁生活の中で生涯を終えました。彼女の行為が貴族社会の間でも許容されなくなり、裁判と厳しい処罰が下されたためです。1610年、エルジェーベトはチェイテ城の塔に監禁され、4年後に息を引き取りました。
悪事を見逃した従僕や女中などは死刑となりましたが、エルジェーベトは身分が高かったため、チェルテ城の自分の寝室で幽閉されました。食事を入れる小窓以外は締め切り、昼でも真っ暗であった寝室の中で、どのような気持ちで人生の最後の時間をすごしていたのでしょうか・・。
吸血鬼伝説との結びつき
吸血鬼伝説への影響
吸血鬼伝説における血の重要性
吸血鬼伝説では血が生命力や不老不死の象徴であり、バートリ・エルジェーベトの伝説はこれと深く関連しています。吸血鬼は血を吸うことで永遠の命を得る存在とされ、エルジェーベトが「処女の血を浴びることで若さを保てる」と信じた逸話は、この概念と一致します。
文学作品「ドラキュラ」や「カーミラ」では、血が命の象徴であると同時に、恐怖の源として描かれています。エルジェーベトの逸話はこれらの物語に影響を与え、血の重要性をオカルトの文脈で強調する基盤を作りました。
「血の伯爵夫人」が与えた文学的影響
「血の伯爵夫人」の伝説は、吸血鬼文学やホラー文化に多大な影響を与え、多くのフィクションに登場するキャラクターの元となりました。ジョゼフ・シェリダン・レ・ファニュの「カーミラ」では、貴族の吸血鬼女性が登場しますが、その冷酷さや不気味さはエルジェーベトをモデルにしていると言われています。また、「Fate」シリーズや「悪魔城ドラキュラ」などのゲームにも「エリザベート・バートリ」としてその要素が取り入れられています。
科学的視点と歴史的検証
誇張された伝説と歴史的事実の食い違い
バートリ・エルジェーベトに関する伝説には誇張が多く含まれ、歴史的事実と一致しない点も少なくありません。彼女が650人を殺害したという話や、処女の血を美容に用いたという逸話は、当時の政治的対立や噂話によって膨らませられた可能性が高いです。
エルジェーベトの逮捕後、彼女に不利な証言は拷問下で得られたものが多く含まれており、正確性に疑問が残ります。さらに、彼女が行ったとされる行為の一部は、敵対する貴族たちが権力を奪うために作り上げた可能性も指摘されています。
650人というのはエルジェーベト本人の証言であり、裁判による正式な記録だと80人となっています。幅がありすぎてどう捉えてよいのかわかりませんが、中間をとっても300~400人は犠牲になったということになります。
「鉄の処女」の虚実と背景
バートリ・エルジェーベトが使用したとされる「鉄の処女」は、後世に作られた誇張されたイメージである可能性が高いです。「鉄の処女」は中世ヨーロッパの拷問具として有名ですが、実際には19世紀以降に作られたものであることがわかっています。
現在、博物館などで展示されている「鉄の処女」の多くは、エンターテインメントとして作られたレプリカです。この点について、エルジェーベトがこれを使用していたという記録は存在しません。「鉄の処女」の逸話は、エルジェーベトの残虐性を強調するために後世に作り上げられた虚構の可能性があります。
まとめ:伝説の魅力と恐怖
エルジェーベトの伝説が後世に与えた教訓
「血の伯爵夫人、バートリ・エルジェーベト」の伝説は、人間の欲望がもたらす恐怖と、それがどのように歴史に刻まれるかを教えてくれます。エルジェーベトの伝説は、美と若さを追い求める執念が、どのようにして残虐性に繋がるのかを示しています。
また、彼女の行為にまつわる逸話は、権力や特権階級の腐敗についても考えさせられるものです。「吸血鬼」という象徴は、時代を超えて恐怖や倫理のメタファーとなり、多くの文化でアレンジされ続けています。エルジェーベトの逸話が、文学、映画、ゲームといったエンターテインメントの分野で語り継がれるのは、こうした普遍的なテーマを持つためです。彼女の物語は、個人の欲望がいかにして社会に影響を与えるのかを教え、後世に多くの教訓を残しています。
なぜ彼女の物語は語り継がれるのか
「血の伯爵夫人、バートリ・エルジェーベト」の物語が語り継がれるのは、その恐怖と謎が、歴史とフィクションをつなぐ象徴的な存在だからです。彼女の伝説は、事実と虚構の境界を曖昧にしながらも、多くの人々の興味を引きつけ続けています。
その内容には普遍的な恐怖、罪、そして権力の持つ危険性が描かれています。現在のチェイテ城が観光地として愛される背景には、エルジェーベトの物語を巡るオカルト的な魅力があります。また、彼女を題材とした映画やゲームが制作され続けていることは、彼女の物語が現代においても多くの人に新しいインスピレーションを与え続けている証拠です。バートリ・エルジェーベトの物語が語り継がれるのは、人間の本質に迫る深いテーマがあるからであり、その魅力は未来へも受け継がれていくでしょう。
血の伯爵夫人の物語、いかがでしたでしょうか。彼女が誕生する背景として近親婚が上がられていますが、同じように近親婚を繰り返していたハプスブルク家などで、ここまでの異常者は出てきてません。なんらかのファクターが重なり合っていると思うのですが、そのような原因も今後究明されていくといいですね。それにしてもおぞましい内容でした。