今回は、今村昌弘先生のデビュー作『屍人荘の殺人』について感想をお届けします。この作品は発売当時に読んで以来、最新作『明智恭介の奔走』以外の今村作品をほぼ読破した私ですが、ふとしたきっかけで7年ぶりに再読しました。犯人やトリックをすっかり忘れていたおかげで、新鮮な気持ちで物語を楽しめました。
本作との出会い
『屍人荘の殺人』との初めての出会いは、デビュー時に話題沸騰となった頃。本屋に平積みされ、「このミス」など主要ランキングを独占するほどの注目作でした。帯には錚々たるミステリ作家たちの絶賛コメントが並び、ミステリ好きとしてはつい手を伸ばしてしまったのを覚えています。その時点で「これは読まなきゃ」と直感したのが、この作品との出会いの始まりでした。
あらすじ(簡単にご紹介)
神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と明智恭介は、剣崎比留子とともに夏合宿でペンション「紫湛荘」を訪れる。しかし、そこで想像を絶する異常事態が発生し、住人たちは籠城を余儀なくされることに。次々と繰り広げられる奇想天外な出来事と謎解きは、驚きの展開へとつながっていきます。
「奇想と謎解きの脅威の融合」という文庫本裏表紙の紹介文は、この作品を端的に表現しています。特に印象的なのは、定番ともいえるクローズドサークルの舞台設定を大胆にアレンジしている点です。最初こそ「リアリティがない」と感じつつも、読み進めるうちにどんどん引き込まれていく感覚は今村作品ならでは。読んでみればその魅力がきっとわかります!
感想(ネタバレあり)
再読ということもあり、読み進めるうちに「そういえばこんな展開だったな」と記憶がよみがえりました。それでも細かいトリックや動機は覚えていなかったので、まるで初読のような新鮮さを味わえました。特に「なぜこんな状況で人を殺すのか?」というホワイダニット要素が強く、ページをめくる手が止まりませんでした。
設定はかなりぶっ飛んでいますが、海外ドラマ『ウォーキング・デッド』のおかげで鮮明なビジュアルが脳内に浮かびやすく、むしろ読みやすさを感じました。状況が特殊な分、「犯人はゾンビなのか人間なのか?」「人が操っているとしたらどうやって?」といった疑問が生まれ、通常のミステリでは味わえない新鮮な体験が楽しめます。
また、数あるミステリ作品を読み慣れた身としては、トリックの難易度はやや優しめに感じられましたが、再読ということもありスムーズに展開を追えました。ミステリとSFの要素が絶妙に融合していて、読後の満足感は非常に高かったです。
ミステリ作家たちのDNAを継ぐ作品
さらに嬉しかったのは、有栖川有栖先生が文庫版の解説を担当している点。先生が今村先生との対談で語っていた内容によると、今村先生は非常に研究熱心で、綾辻行人先生の『時計館の殺人』や有栖川先生の『双頭の悪魔』などの構成をまとめたノートを作るほどだとか。巨匠たちのDNAをしっかりと受け継ぎ、それを基に新たな名作を生み出している今村作品には感服するばかりです。
ミステリ好きにとって、「この作品を書いた人も自分と同じ作品を愛している」と気づいた瞬間は何ともいえない親近感を覚えます。まるで仲間に出会ったような感覚ですね。そしてこのDNAがさらに次世代の作家たちに受け継がれることで、未来の名作が生まれると思うとわくわくが止まりません!
おわりに
『屍人荘の殺人』は奇想天外な設定と緻密なトリックが融合した、ミステリとしてもSFとしても楽しめる傑作です。再読後も「さすが今村昌弘!」と唸らされる一冊でした。最新作『明智恭介の奔走』もぜひ手に取ってみたいと思います。
それではまた次回、別の作品でお会いしましょう!
謎と答え(完全ネタバレ:閲覧注意)
ここからは今作の謎と答えを備忘のために書いておこうのコーナーです。完全ネタバレ部分ですが、答え部分は伏せておくので、読後に思い返したい場合にクリックしてください。
進藤殺しはどのように行われたか。
確認したい場合はクリック(完全ネタバレ:閲覧注意)
進藤はゾンビに襲われた星川をベッドに匿ったが、その後ゾンビ化して進藤が喰われた。ゾンビ化した星川は、その様子を見ていた静原の方に行こうとしてベランダから落ちた。静原は、犯行を人間の仕業と見せかけることで、今後の自分への疑いを回避することを思いつき実行した。
立浪殺しはどのようにおこなわれたか。
確認したい場合はクリック(完全ネタバレ:閲覧注意)
あらかじめどこかで使用することを想定して持ってきていた睡眠薬を、コーヒーメーカーの水に溶かし、多くの人を眠らせた。立浪の部屋のカードキーは、その日の夕方自分のカードキーと交換していた。立浪をエレベーターに乗せ、9賢人の銅像や武器などで重さ調整をして1階のゾンビに殺害させた。その後上がってきた立浪がゾンビ化するまで待ち、再度殺した。
七宮殺しはどのようにおこなわれたか。
確認したい場合はクリック(完全ネタバレ:閲覧注意)
立浪殺害後、非常扉が破られたことに気づき、比留子と高木のピンチを知るが、同時にこれを利用すれば七宮殺害のチャンスがあることに気付く。立浪の血を目薬を吸い上げ、七宮の部屋に入った際に置いた。(七宮はその目薬を差して死亡。おそらくのちにゾンビ化)